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セイジ・オザワ松本フェスティバル オーケストラコンサートAプログラム ベートーベン交響曲第7番

 第一楽章と緩徐楽章とのあいだ、重苦しい長い間であった。
 第一楽章を終わり、疲れ切って指揮台を降りてヴィオラ席の前の小椅子に座り込んだ小沢征爾さんの一挙手一投足を満席のホールの聴衆全員は息を詰めて見守っていた。しわぶき一つ起こらなかった。

 その夜は登場からして特別だった。指揮者は通常オーケストラの音合わせが終わったあと一人登場するものだが、その夜の小沢さんは、三々五々登場するオーケストラ団員と一緒に何気なく登場し、近くの団員たちと握手を交わしながらゆっくりと指揮台に上がった。
 指揮はすぐ始まった。ベートーベンの交響曲 第7番。小沢さんは暗譜であった。

 第一楽章冒頭のトウッティの最強音は力強さにやや欠け、主題に入ってもなかなかリズムに乗れぬまま、時々指揮台上の椅子に腰をおろして慣れたオーケストラに進行を任せ切っているように見えた。コーダの終わり、弦に応答するホルンの響きで始めて生気を感じさせた。

 第一楽章を終わって指揮台を降り、ヴィオラ奏者から与えられた紙コップを、そっちが良いというようにボトルにり替えるしぐさなどを、満員の聴衆は固唾を呑んで見つめていた。
 咳一つない長い間を経て、再び指揮台に上がり迎えた第二楽章、「不滅の緩徐楽章」(ワーグナー)は、世界で最も美しく、弱々しくあたかも指揮者が自らを葬送するかのようであった。
 ただの一音をも聞き漏らすまいと全神経を傾けて聴いていた聴衆の多くは涙した。

 再び疲れきって指揮台を降りてボトルの水。しわぶき一つない満席のホール。長い間。
 迎えた第三楽章 スケルツオ。段々テンポが上がってくる。休みを取らずそのまま最終楽章へ。荒々しく激しい弱強弱強のロックのリズム。まさに「舞踏の聖化」そのままの指揮と演奏。 
 一二楽章とは全く人が変わったように、この最終楽章のために体力を温存していたかと思われた圧倒的な迫力の指揮でコーダになだれ込んで行った。

 終わった後さすがに疲れきられたか、各パートの主席らの手を握りながら早々に楽屋に引きこもられたが、満席のホールの聴衆全員スタンディングオベーション。
 オーケストラメンバー全員もスタンディングオベーション。コンサートマスターらが小沢さんの体を気遣って退席しようという姿勢をとるが三度、四度とコールに応えられる小沢さん。その間ホールはずっとスタンディングオベーション。
 何度目かのコールではすでに私服に着替えていたファビオ・ルイージの手を携えて登場し、聴衆のオベーションは最高潮に達し文字通り怒涛となってホールを埋め尽くした。そんな中、小沢さんはオーケストラメンバーほぼ全員と握手をして回り、満面の笑みを浮かべながら聴衆に別れの手を振られるのであった。

 一期一会とは言うものの、来年もぜひこのフェスティバルで、小沢さんの指揮を聴きたいものと思った。 

 コールに応えられる小沢さんとルイージさん

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 会場のキッセイホール前にて

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